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『正義の申し子』染井為人|鉄平の女遍歴を考察、ネタバレ解説

同志少女よ、敵を撃て

Audible版、正義の申し子はこちらから。サンプルあり。

ネタバレしていますので注意してください。

⚠️正義の申し子に漂う偽り臭

申し子、という言葉を調べてみると、『神仏に祈った結果、授かったこども』とある。では正義を改めて調べてみると、『人として行うべき正しい道』とある。

つまり正義の申し子とは、『人として正しい行いをするこども』となる。その時、アッと思った。主人公の純はこどもだった。引き籠りとなりYoutuberとしてお金を稼いではいても、オフライン上では家族以外の人間と接点がない、引き籠りなのだ。

その純は動画の視聴回数を増やす為に、注目を集める企画を自分で作らなければいけない。そこには悪を正し正義を貫く、そういった崇高な精神などない。

しかしタイガーマスクを被り、ジョンとなると精神的に破綻し破天荒ながらも正義を振りかざすこどもになる。まさに正義の申し子だ。しかし、その正義にはなぜか共感できない偽善の要素が含まれている。

きっとそれは、実社会でも過去に炎上系Youtuber、迷惑系Youtuberなどいたが、そういった人達は多くの人から批判を浴び片隅に追いやられていった。

そう考えると、ジョンに感じる胡散臭さと偽り臭がする正義に、なぜか合点がいった。高潔なる正義ではなく、そこには偽りとエゴが多分に含まれた正義、言い換えるなら偽善なのだ。

👀著者紹介

『正義の申し子』は、染井為人氏によって2021年8月に角川文庫から出版された小説です。

著者の染井為人氏は、2017年に『悪い夏』で第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞し、デビューを果たしました。今回の作品は現代のSNS社会を舞台に、正義と悪の境界線を鮮やかに描き出す痛快エンターテインメントです。

著者は、あとがきでこの小説を書くきっかけとなったエピソードを紹介しています。あるユーチューバーと対談した際、動画で見た印象と実際に会った印象があまりにも違ったことに驚き、そこから着想を得たそうです。この経験が、今回の主人公の二面性を生み出すヒントになったのかもしれません。

👻登場人物

佐藤純(ジョン):引きこもりの青年で解離性同一障害。タイガーマスクを被ると人気ユーチューバー、ジョンに変身。


栗山鉄平:元暴走族で今は悪徳請求業者。キレやすいが後輩想いの一面もある。純(ジョン)と対立する。

沙織:鉄平と同棲している。キャバクラ勤務。


佐藤蘭子:純の妹。金髪の高校一年生。純と仲が悪いが昔は良かった時期もあった。


眞田萌花:蘭子の友人。恋愛に憧れる純粋な少女。


西野:栗山の元暴走族の先輩でクズ男。


樋口:栗山の後輩で、栗山を慕う。頭は良くない。

📖あらすじ

純は現実の世界では引き籠りで、母には特に辛く当たっている。妹の蘭子がいるが、仲が悪いというレベルではなく、最高レベルの険悪ムード。純はオフラインの世界では見えない存在扱いされ続け、自分に自信を無くし心を閉ざしてしまう。

しかし純はYoutubeの世界では、タイガーマスクを被りジョンとして生きている別の仮面があった。そのジョンは悪徳業者を懲らしめる登録者数55万人の人気ユーチューバーなのである。

彼が作る動画は人気を博し、登録者数はうなぎ登り。

そんなある日、ジョンは架空請求をする悪徳業者、栗山鉄平をターゲットにした動画を配信する。その動画が大当たりで登録者から大反響を得る。

調子に乗ったジョンは、鉄平を挑発するような動画を配信するが、これがジョンの転落の始まりとなっていく。

動画内で屈辱を受けた鉄平は、ジョンの正体を突き止めるべく大阪から純が住むと思われる東京へ。一方、純は解離性障害を発症した影響で、ジョンがメインの人格になりつつある。

物語は純(ジョン)と鉄平の対立を軸にして進んでいき、蘭子とその友人たちも巻き込んで想定外の展開をしていく。

西野の復讐とクズっぷり、樋口の頭の悪さ、鉄平と母の関係など物語を彩るストーリを織り交ぜながら、一気にラストまで駆け抜けていく軽妙さそして疾走感が最高だ。

🚀鉄平が女に執着しない理由

栗山鉄平は架空請求をして金を騙しとるクズだが、彼の過去を知ると同情してしまう部分もある。なぜ鉄平は同棲している沙織とセックスをしなくなったのか。なぜ鉄平は自分を捨てた母親に連絡をしてしまうのか。

その原因は鉄平の母にあるのだと思う。物語の中でも西野が『鉄平はマザコン』と言い切るシーンもある。鉄平は幼少期に母の愛情を受けずに、もしくは欠乏した環境で育つことで、愛着障害を持ってしまったのではないだろうか。

男がいないと生きていけない母を持った鉄平は、幼少期の頃から女に対して執着しない、弱い性衝動しか持たない人間になったのではないだろうか。自分の母をみていると、哀れでならなかったのではないだろうか。

だから、西野が沙織を寝取ったことを知っても、沙織に執着することもなかった。それは、女とはそんなものだ、という価値観を幼少期の頃から持っていたのかもしれない。

鉄平が付き合ってきた女すべてに、母の姿を重ねていた部分があったのではないか、そう思ってしまう。物語でも、沙織とよりを戻す描写は出てこなかった。沙織に向かって『売女(ばいた)』と罵るシーンもある。つまり鉄平にとって女とはその程度の存在でしかなかったのではないか。

その証拠に鉄平は架空請求を生業にする前はホストをしていた。

きっと鉄平は容姿は平均点以上のカッコいい男なんだろう。それに加えて『情に厚く、社交的』な側面も持ち合わせていた。さらに女に対して弱い性衝動がまた彼の魅力を増したのではないだろうか。

容姿もよく、トークも良い、そして女に対して冷静でゆとりがある。モテ要素を十分に満たしている。だから女にも困らないだろう。

つまり鉄平からしたら、特定の女に執着する理由が皆無なのだ。

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🗣️ネット上で評価されている点

テンポの良さ:「読んでいる手が止まらなかった」、「展開が早く続きが気になった」次々と展開する予想外の出来事に、読者は引き込まれていきます。その理由が分かりやすく親しみやすい文章だからです。

なので物語を聴いていて、スッと頭の中に映像が浮かび上がってくる感じ。


キャラクターの魅力:当初は嫌な奴だと思っていたキャラクターが、物語が進むにつれて愛おしく感じられるようになる、という感想が結構ありました。特に鉄平に愛着を持つ読者が多いです。

これもキャラ設定がしっかりしている証拠だと思います。鉄平は関西弁でイケメン。しかも過去に影がある。そして不器用な生き方をしている。

こういった人間臭い感じがリアリティあって共感できるところ。


社会への問題提起:SNSやユーチューバーの問題、正義の在り方など、現代社会の様々な問題を織り交ぜた痛快エンターテイメント。

その時代の社会が抱えている問題、常識の変化、新しいガジェット、ツール、そんなエッセンスを物語に取り込んでいる点が、読者との共通点が生まれよりその世界に引き込まれていくと思っています。

💯最後に

『正義の申し子』は、現代社会を生きる全ての人におすすめできる作品です。特に、SNSやインターネットを日常的に使っている人達には、新鮮な衝撃を与えてくれるはず。

この物語を一言で表すなら、「現代社会の光と闇を炙り出す、痛快エンターテインメント」です。読み進めていくと、「あぁ、その感じ、何となくわかるわかる。」みたいなことを、心で噛み締めるのでないかと思います。

そしてラスト、対立したジョンと鉄平にどんな結末が待っているのか!?それをぜひ見て欲しい。


この記事を書いた人
まさ

小説の構造・結末・テーマを徹底考察。
「ただ読むだけ、聴くだけでは終わらせない」
考察の過程で、作品に込められた意図や、物語の裏にある仕掛けを読み解くのが醍醐味。
特にミステリー好きな方に、新たな視点を提供できれば嬉しいです!

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