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『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬 | 感動のラスト解説とネタバレ考察

同志少女よ、敵を撃て

Audible版、同志少女よ、敵を撃てはこちらから。サンプルあり。

ネタバレしていますので注意してください。

✅作品の概要と著者紹介

2022年に逢坂冬馬氏によって執筆された作品で、第168回直木賞を受賞しました。

著者は戦争文学だけでなく歴史小説、推理小説など幅広いジャンルで執筆してきた実力派の作家でもあります。

作品の舞台は第二次世界大戦末期のソ連です。戦時下という極限状態の中で、幼気な少女達が凄腕の狙撃手に変わっていく姿を、史実とフィクションを融合させ展開させていく渾身の一冊だと思います。

戦争文学でありながら、少女達の友情、そして心の変化、人間としての成長を織り交ぜ、『なぜ戦うのか?』そこをテーマに、彼女達が生き抜いていく姿が逞しくもあり、哀しくもあった。

👀登場人物

登場人物の名前が、日本人には馴染みがないので、物語の序盤ではイマイチ把握できなかった。

なので、まずは主要な登場人物達をおさえておこう。

主人公
セラフィマ・アレクサンドロヴナ・ナザロワ(愛称:フィーマ)は1924年生まれの少女。独ソ戦で村が襲撃され母を失い、その後狙撃兵としての道を歩み始めます。

故郷の村の人々

  • エカチェリーナ:セラフィマの母親
  • ミハエル(愛称:ミーシカ):セラフィマの幼なじみの男の子

ドイツ軍側

  • イエーガー:顔に傷のある狙撃兵。セラフィマが復讐に燃える相手
  • ベルクマン:イエーガーの教え子である狙撃兵

狙撃訓練学校の仲間たち

  • シャルロッタ:モスクワ射撃大会で優勝した実力者
  • ヤーナ:28歳と最年長で「ママ」の愛称を持つ
  • アヤ:カザフ人出身の狙撃の天才
  • オリガ:ウクライナ出身のコサック

軍事組織の人々

  • イリーナ:狙撃訓練学校の教官長(主役級の人物、フィーマに恨まれている)
  • ハトゥナ:NKVD(内務人民委員部)の一員
  • リュドミラ・パブリチェンコ:英雄的な女性狙撃兵
  • ジューコフ閣下:赤軍上級大将

これらの登場人物たちは、戦時下のソ連を舞台に、それぞれの立場や信念のもとで行動し、物語を展開させていきます。セラフィマを中心として、「恩義と憎悪」という感情の中で、複雑な人間関係が織りなされていきます。

📖あらすじ

第二次世界大戦末期のソ連が舞台。セラフィマは若干15歳で狙撃手としての訓練を受けることに。同期が次々と去っていく中で、厳しい訓練を乗り越えた少女達だけが狙撃手として戦場へ送り込まれていきます。

そこで彼女達が見たもの、そして肌で感じたものは筆舌に尽くしがたい残酷で無慈悲な世界だった。人を殺す重圧、仲間を失っていく悲しみ。

自分の命が次の瞬間消えてしまう、そんな極限状態の中で少女達は、狂気と苦悩を抱え驚くべき成長を遂げていく。

戦争というテーマの中で、少女達の成長、人間の醜さ、残虐性、道徳心の脆さ、心の変化、そういった人間を中心としたドラマが色濃く描かれています。

⚠️イリーナの冷徹さと戦う理由の考察

やはり狙撃訓練学校の訓練長、イリーナとの関係です。セラフィマはドイツ軍によって理不尽に村人、母親を殺されてしまう。

そこに現れたイリーナ。『お前は戦うのか、死ぬのか?』その問いをセラフィマに投げかける。イリーナによって自分の母親を無残に焼かれ、セラフィマの大切なものを次々に破壊される。

イリーナに対して強烈な憎悪をもつセラフィマ。なぜイリーナはこんなことを。なぜイリーナはこんな冷酷無比な人間なのか。

イリーナとセラフィマとの関係の変化、そして隠されたイリーナの想い、この二人はどうなるのか。

その他にも心に残るシーンはたくさんあります。

セラフィマが初めて人を殺すシーン。あの描写をナレーターが朗読していく。言葉に言い表せない緊張感の中で引き金を引きそして殺す。

そして、この曲をなぜか思い出してしまった。

実はイリーナは、セラフィマのような女達に戦時下で生き残る術を授けていた。私は戦争経験者ではないので分からない点が多いが、戦時下で女が生き残っていくことは、並大抵のことではないだろうと想像できる。

秩序が崩壊し、暴力が支配する世界。そこで女が生き残っていくには、武器を握りしめ戦って悪魔になるしかない。そうならないと、暴力と欲望に飲み込まれ結局殺されてしまうのだろう。それは歴史が何度も証明している。

そしてイリーナは狙撃兵として素質がない女達にも、別で生き残る術(別部隊への移動)をちゃんと準備していたのだ。つまり、イリーナは女達を守ることこそが、彼女の戦う理由だったのだ。

しかし、それを表に出して訓練生に知られてはいけないのだ。なぜなら彼女は教官であり、素人達を立派な殺人鬼に変えないといけないのである。そこに優しさや思いやりなど不要。むしろそんなモノを戦場に持ち込めば瞬殺されてしまう。

なぜなら戦場は殺し合いの場だ。

だから彼女は悪魔にならないといけなかった。悪魔を育てるために、彼女は悪魔にならざるを得なかった。それは全て女達を守るために。

物語のラストで、イリーナが別の戦地への希望を上官に打診しているシーン、あれは自分への罰なのだ。女達を悪魔に変え、そして戦地へ送り込み死んでいった者たちがいる中で、終戦を迎え自分だけ安住の地で幸せにはなれないのだ。

だからイリーナは死に場所を探し続けなければいけなかった。しかし、セラフィマの存在が彼女を救った。イリーナの優しと自分への仕打ちの理由が理解できたセラフィマは、彼女への憎しみから解放され、それと引き換えに愛情に似た感情を持つようになったのではないだろうか。

イリーナがセラフィマを救ったように、セラフィマもイリーナを救ったのだ。それは同じ戦場、死線を潜り抜けた二人にしか分からない感情なはずだ。

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💝セラフィマが手に入れたものとは?

ラスト、イリーナとセラフィマはイワノフスカヤ村で暮らしていくことになります。この村はセラフィマが生まれ育った村であり、母エカチェリーナ、村人たちが殺された場所でもあります。

そこにイリーナを誘い2人で村の再興をしながら生きていた。村人からは、人食い魔女と揶揄されながらも、イリーナとセラフィマはそこで暮らしていた。きたと、そんな悪口などは彼女達からすると取るに足らないことだったでしょう。

なぜなら事実だからです。戦場で人の命を取ってきた過去は消えない、だから魔女だろうが、人殺しだろうがたいした差はありません。

きっと1人では耐えきれない孤独も、同じ死線を潜り抜けた2人だから、少しは軽くなれたはず。そして心に抱えた大きな傷も、2人だからこそ癒し合え生きていくことができだ。

言葉で多くは語らなくても、互いの目を見れば何かを感じることができた。

だから生きていける。だから村人の噂など取るに足らないことなのだろうと考察しています。

そしてセラフィマは写真に目をやる。そこには年齢を追い抜いた母エカチェリーナと父マルクの写る姿があった。セラフィマに少し似た母、そして険しい父の表情、そしてもう1つの写真に視線が移る。

狙撃訓練学校時代の写真だ。

そこにガチガチに緊張した若き日のセラフィマの姿があった。彼女はなぜ父が険しい表情をしていたのかを理解できた。緊張していたのだ。かつての自分がそうであったように。

そして母エカチェリーナの自分への愛情がどんなものだったのか、なぜ命を投げ打ってまでセラフィマを生かそうとしたのか、それも理解できた。

それはセラフィマはあるものを手に入れることができたから。

それが『』です。

セラフィマはイリーナという愛する人を得ることができた。その愛も2人にしか分からない愛だった。そしてその愛が分かったからこそ、母エカチェリーナの自分への愛も理解できたのだ。

そして物語のラストで、イリーナは取材を受けるセラフィマに同意を示しています。『お前が少し嬉しそうな顔をしたから。そうしたら私の戦争も終わる』と。

愛するセラフィマが嬉しそうな顔をする、ただそれだけイリーナの心に少しだけ光が差し込んできたのだろう。

そして今までイリーナが言えなかった、誰にも言えなかった戦争、女の顔をしていない戦争でどれだけの女性達が虐げられてきたか、その真実をセラフィマが語ってくれる。

それでどれだけの人があの戦争の真実を知るかは分からない、しかし後世に文字として残っていくことは確かだ。戦争で生き残った人達、そして失われた命、それを形として残していくことができる。

だから、イリーナは『私の戦争も終わる』と言ったのではないだろうか。

🗣️ネット上の感想

この物語を読んだ読者の中には、『戦争の残酷さとその中で人間が生きていく力強さに、胸に迫るものがあった。』、『少女達の成長物語としても、戦争文学としてもどちらも満足できる作品。』こういった感想がありました。

私の感想は、『スターリングラードの戦いが、如何に悲惨なものだったか、学ぶことが出来た。』です。戦前に60万人いた市民、それが戦いが終わる頃には9000人程度になっていた、そういった歴史があること。

常軌を逸した世界で、同士少女達は、ただひたすらにカッコーとフリッツを殺していったんだなと。

そして『戦争は女の顔をしていない。』の言葉がなぜか、私の胸に残っている。あとになって調べてみると、女性達がいかに虐げられていたか、本当に人間とは救いようの無いバカだなと思わざるをえなかった。

ひょっとしたら生々しい戦争の描写に、読むのがつらくなる人もいるかもしれないが、ぜひ最後まで読んでみて、女達の戦いの行く末をみて欲しいと思います。

💯心に刻まれる物語

『同志少女よ敵を撃て』は、戦争という極限状況下での人間の姿を、少女たちの視点を通して鮮明に描き出した傑作です。

この本を読むことで、戦争の残酷さと人間の強さ、そして成長の意味について、深く考えさせられます。この本は単なる戦争物語ではない。それは、人間の強さと弱さ、残虐性、愚かさ、友情の尊さ、そして成長の痛みを描いた、普遍的な人間ドラマです。

聴了後、あなたは少女たちの姿を心に刻み、長く余韻に浸るはず。この物語は、戦争の悲惨さを伝えると同時に、人間の可能性と希望も示しています。狂気の中でも、人は成長し、友情を育み、そして生き抜くことができる。そんなメッセージが、この本には込められていると感じざるを得なかった。

『同志少女よ敵を撃て』は、読者の心に深く刻まれ、長く記憶に残る作品となるでしょう。戦争と平和、成長と友情について考えを深めたい方、そして心揺さぶられる物語を求めている方に、ぜひ一読をおすすめしたい。そしてこの本との出会いで、あなたに新しい視点が生まれることを期待しています。

この記事を書いた人
まさ

小説の構造・結末・テーマを徹底考察。
「ただ読むだけ、聴くだけでは終わらせない」
考察の過程で、作品に込められた意図や、物語の裏にある仕掛けを読み解くのが醍醐味。
特にミステリー好きな方に、新たな視点を提供できれば嬉しいです!

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