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『此の世の果ての殺人』荒木あかね|つまらない感想の考察、ネタバレあり

同志少女よ、敵を撃て

Audible版、此の世の果ての殺人はこちらから。サンプルあり。

ネタバレしていますので注意してください。

😟せっかくの舞台設定が勿体ない

あと数か月で世界が終わる、という設定に興味があったので聴いてみたのですが、著者が物語で表現したかったことと、私が望んでいることが違っているようで物足りない感じでした。

簡潔に言うならば、物語全体に緊迫感がないってことです。(著者はそんなこと表現したくなかったのかも)

率直に不満でした。なんだろう、何か世界観に浸れない、登場人物に共感、反感を感じられない、臨場感もない、だから面白さも感じられないってことになります。

例えて言うなら、白湯でうどんを啜る感じ。

せっかく、あと数か月で世界が終わるという設定なら、せめてもっと臨場感を持たせるようなプロットにしたらどうだったのかなぁ、と思いました。

時間の経過と伴に隕石が大きくなってきているとか、世界の混乱の状況を知る術を物語に入れて、犯人探しと並行して世界の秩序崩壊を随所に加えるとか、そういったハラハラドキドキ感がありつつ、殺人事件の背景を作って欲しかった。

世界の終わりに殺人事件が起きて、特にすることもないし犯人を捜します。

犯人の動機は、気が狂ったとか、どうせ死ぬんだから人を殺してやる感じ、かな!?

だいたいそんな感じだった。

予想通りの展開で、占い結果が分かった状態で占ってもらった感じ。

だからこそ例えば、ありがちだけど犯人に社会から批判されるような性的嗜好を持たせ、そこと殺人の動機を絡ませるとか。

何かそこは深い何かがあって欲しかったなぁと。

あとは、登場人物にまるで共感できなかった。小春然り、イサガワ然り、そして了道兄弟、七菜子に至っては物語に要るのか?とまで思ってしまいました。なぜなら特別彼らが物語に深みを与えているとは思えなかったからです。

そして、最後までよく分からなかったのが、犯人の動機です。そんなものは無い、と言うのが動機だったと思えばしっくりくるので、そう考察しましたが、その点もスッキリしない感じでした。

一般的に人を殺すなんて狂気の沙汰です。だから気が狂う感じなら、表の顔と裏の顔をしっかり際立たせ、もっと死体を損壊させ残忍さを描写したらその異常性が印象に残り、その点だけでも尖った物語になったかもなぁ、なんて思ってます。

例えば頭部だけを持ち去るとか、身体の一部分を切断、他の死体と組み合わせ路上に放置するとか、そういった異常性を持たせる感じ。

💦エピローグもなんだかつまらない

犯人が明らかになってエピローグになるわけですが、望遠鏡を覗いて隕石をみるって・・・。私は物語のオチの部分を期待して聴いていたわけですが、そこも中途半端でしばらく負の読後感を味わっていました。

私の好みとしては隕石が地球に衝突するその瞬間の描写まで書いてもらい、『あぁ!終わる!うわぁぁぁ』っという救いようがない結末なら印象に残る物語の1つになっただろうなぁ、と個人的に思っています。

そうだなぁ、地球の自転が止まり始めるとか、動物たちが異常行動を起こし始めるとか、小さな隕石の粒が先に地球に降り注ぐとか、隕石が日本から少し離れた場所に落ちてもの凄い爆風が襲ってきてとか、読者に印象付ける何かがないと『えっ!?これで終わりなの!?』となったのが正直な感想です。

デザートが出ないフランス料理のような感じ。

ちなみに私は小春の母が失踪した理由が知りたかった。了道兄弟を削除して小春の母親の背景を追加した方がまだ小春に共感できる要素が追加されるのでは!?と思ってしまった。

だって子供をおいて自分だけ逃げるって、どんな家庭環境だったんだろうか。夫婦の不仲、家庭内の崩壊、母親の不倫、母親としての資質に欠ける、精神破綻など色々1人で想像して補完してました。

物語中でも似たような描写があったけど、世界の終わりなんだから、どこへ行っても同じだろうと。

一部のお金持ちも少しだけ生きながらえても、恐竜が隕石で絶滅したように人類も絶滅必須です。

そう考えると、子供置いてあなたはどこへ行くのか!?となるけど、死ぬ時期があと数か月と分かるとやはり精神がおかしくなってもおかしくないか、とも考えました。私もおかしくなる可能性は十分にあるし。

それでは批判的な感想ばかり書き連ねましたが、一読者としての感想なのをご了承ください。

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✏️勉強になったフレーズ

RightはLight(LightはRight)

🚨いや、私は騙されているのではないか?

ココまで批判的なレビューでしたけど、考えてみたら疑問なことがあったので考察してみたい。

それは著者はなぜこの設定にしたのか!?ってことです。世界の終わりの設定にし、殺人事件を起こしたら動機が想像つくと思いません?

自暴自棄、精神破綻などそういったところかな、と。私も最初はそう思っていました。しかし、よく考えると、著者に近い人の中には、その設定だったら結末が予測つきやすいのでは!?と指摘をしたはずです。

にも関わらず、著者はあえてこのプロットで物語を完成させたのではないだろうか。

もしそうなら、なぜだろうか。

  • 引き籠り
  • 自殺
  • 精神破綻
  • 秩序
  • 共存
  • 友愛

弟の引き籠り、父や社会中で起こる自殺、精神破綻したカナエ、秩序を守ろうとする銀島、残留村での共存、了道兄弟の兄弟愛、ハルとイサガワの友愛、そういった小さなテーマが散りばめられています。

ミステリー小説の本筋を追うなら、ハラハラドキドキ感をもっと追求した描写や設定もできたはずです。だけどそれはせず、あえて小さなテーマを入れることで、人間の正体をみせたい、そんなメッセージも込められていたのではないだろうか。

すべての人間が合理的に生きているわけではない。

すべての犯人が合理的な動機をを持っているわけではない。

すべての人間が自暴自棄になるわけではない。

すべての人間が強いわけではない。

すべての人間が希望を失うわけではない。

もしそういったメッセージ性を含ませ、ミステリーとしての形を取ろうとした結果、ピントがぼやけた世界観になってしまったのかもしれない。

前述したのだがハルの母親が失踪したのも、必ずしも合理的な理由ではなく、彼女しか分からないトリガーが引かれ、結果失踪するという人間の非合理性と脆さの表れなのではないか。

つまり他者が起こす理解できない行動です。

そう考えてみたら、この小説は極限状態になったとき、人間の正体がいかに弱く滑稽なものか、それでいて、最後まで人間として生きようとする強さも共存しているのです、というメッセージがあるのではないだろうか。

そして『人間とは何か?』みたい側面もみせたかったのでないだろうか。

しかし焦点を2つ持たせた結果、物語全体がピンボケしてしまった感がでたのではないだろうか。もし仮にそうならば、2つの側面の中立に立って物語を改めて思い返すと『あぁ、なるほどな。』と腑に落ちる感じがあります。

あなたはどう感じただろうか。

⚠️もし此の世の果てになったら

この物語で素晴らしいなと思った点は、『もし此の世が終わるなら』という問いかけです。どうせ死ぬし、どうせ何をしたところで無意味だし、そういった状況の中で自分ならどうしたらだろうか!?という問いかけです。

物語では小春が『自分にできることをする』という、とても前向きな発言をしています。

こういった心理面での描写や問いかけは素晴らしいなと思った。自分なら自暴自棄になってもおかしくなしい、寧ろそれが正常だったりするかもしれない。

逆にそういった状況だからこそ、規則正しく生活して世界の終りの社会を探索してみたくなるだろうな、とも思った。

だって『世界は終わるのだから』。

少しくらい危険な目にあっても死ぬのが早いか遅いかの違いだし、社会秩序の崩壊、倫理の崩壊が確定している時点で、普通という概念すら要らない社会だと思う。

そういった世界の中で、自分なら前向きに生きていけるだろうか?!と考えたりもしました。

ところで著者はまだ若い方ですし、今後の作品に期待したいと思うばかりです。

この記事を書いた人
まさ

小説の構造・結末・テーマを徹底考察。
「ただ読むだけ、聴くだけでは終わらせない」
考察の過程で、作品に込められた意図や、物語の裏にある仕掛けを読み解くのが醍醐味。
特にミステリー好きな方に、新たな視点を提供できれば嬉しいです!

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