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悪徳の輪舞曲(ロンド)|中山七里、首吊りと結末の考察、ネタバレ解説。

Audible版、悪徳の輪舞曲はこちらから。サンプルあり。

ネタバレしていますので注意してください。

🔢御子柴礼二シリーズの順番

まさ
まさ

出版日ごとに並べています。この順番通りに読んでいくと、より物語が愉しめます。

贖罪の奏鳴曲(ソナタ)(1作目、2011年10月)

追憶の夜想曲(ノクターン)(2作目、2013年9月)

恩讐の鎮魂曲(レクイエム)(3作目、2015年9月)

悪徳の輪舞曲(ロンド)(4作目、2017年10月)←今回はこれ。

復讐の協奏曲(コンチェルト)(5作目、2019年10月)

殺戮の狂詩曲(ラプソディ)(6作目、2023年6月)

🎹タイトルの悪徳の輪舞曲(ロンド)を考察

輪舞曲って、メインになる特徴的な旋律(メロディー)があって、途中で違う旋律が挿入され、そしてまたメインの特徴的な旋律に戻ってくる構成になっています。

例えばAというメインな旋律、その間に違う旋律、B、C、これがこんな順番で構成されています。A-B-A-C-Aみたいな感じです。

Aが繰り返し登場し、最後にまたAに戻ってくる構成で、ベートーヴェンの悲愴、第三楽章も輪舞曲です。

次に悪徳の意味です。

この言葉には、人の道に背く行いや心という意味があります。今回の物語では悪徳を輪舞曲に乗せて進んでいくイメージだと思います。

小説でいう輪舞曲とは、登場人物の関係が巡り巡って最初に戻ったり、事件の終わりがまた始まりに繋がったり、そういった捉え方をしているようです。

👫御子柴と郁美の輪舞だったのか!?

色々考えてみたんですよね。首吊りに関する輪舞だったのか、それとも御子柴(園部信一郎)と郁美(母)の輪舞だったのか。

そして私なりにしっくりくる結論は、やっぱり親子関係の輪舞でした。

70代になった母が殺人容疑の被疑者として御子柴(弁護人)と再会する。御子柴は母、郁美と妹の梓の足取りを追うために群馬、名古屋、福岡を訪れ彼らの過去を探る。

そして現在の郁美と何度も接見し、公判の打ち合わせをしたりするものの、御子柴は過去に引き摺られ、園部信一郎としての自分と母である郁美との記憶を回想してしまう。

こういった物語の流れはA-B-A-C-Aの構成になっているように思うのです。ベースに母と息子の存在がある。

だからこの物語は園部信一郎と、その母である郁美との約30年ぶりの対話とそして追憶なのだと私は考えています。

そしてこの2人に共通していること、それは人の道に背く行為をしているってことなんですよね。つまり悪徳ってこと。

その悪徳2人に負けないくらい、他の悪徳(成沢、町田)も参加し輪になってグルグル回っている感じ。でも最後はやっぱり御子柴と郁美に戻って曲は永遠に流れ続ける。

そして法律で人を縛れる限界、人間社会の残酷で理不尽な仕組み、それも延々と繰り返される。

👀登場人物

御子柴礼二:悪辣、金に汚く、評判がすこぶる悪いが超絶優秀な弁護士。交渉、話術、弁論は一級品。

日下部洋子:御子柴の法律事務所で働く事務員。

成沢郁美:御子柴の実母。再婚した夫殺しで逮捕される。

薦田梓:御子柴の妹。郁美の件で30年ぶりに再会する。

槙野:郁美の事件を担当する検事。贖罪の奏鳴曲で、御子柴により辛酸を舐めた額田検事からアドバイスを受ける。

成沢拓馬:郁美の再婚相手。温和な性格で前妻を理不尽な事件で亡くす。

友原行彦:福岡県警察本部、捜査一課警部補。30年前の園部健造の自殺を、郁美によるものだと疑惑を持っている。

町田訓也:無差別殺人を行った32歳無職の男。3人が死亡、4人が重軽傷を負うものだがその後統合失調症と判断され刑事罰を免れる。

📖冒頭の首吊りシーンを考察

今回、完全にミスリードされてしまった点は、物語のプロローグである首吊り偽装シーン。あのシーンは成沢拓馬によるものではなく、29年前、自殺として処理された園部謙造(御子柴の父)の首吊り偽装だったわけです。

それを成沢拓馬のものと勘違いして物語を聴き進めていく。読者はそれを偽装をしたのが郁美だと思っているので、御子柴がどうやってそれを無罪、もしくは執行猶予判決にするのか気になってしまう。

しかし物語のラストで御子柴によってそれらの真相が全て明らかになっていく。が、しかし御子柴も思いも寄らない事実が郁美の口から飛び出し震える。

御子柴の父は苦しさから逃げ出したのではく、その逆、園部信一郎を救う為に命を自ら断ったことを。

そしてこの首吊り偽装には2つの意味がある。

1.成沢拓馬、園部謙造の2つの首吊り死体(時間軸が違う)だった。

2.御子柴の父の真相が明らかになる。

郁美がなぜ、警察の取り調べでも『無実』を主張し続けることが出来たのか!?

もともと悲観的で依存心が強い女が、厳しい警察の追求に耐え自白しなかったのも、そもそも成沢の首吊りの偽装をしていなかったからなんですね。

だから徹頭徹尾、『私はやっていない』と主張できたわけです。一般的に警察の追求は甘くないので、犯罪をしていれば必ず彼らに暴かれるでしょう。

しかし郁美は自白しなかった。それが成沢の自殺に関わっていない何よりの証拠。

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🧐加害者、被害者の家族との対比

今回の物語では、犯罪加害者の家族、そして被害者遺族のその後が描かれています。

犯罪加害者の家族:園部郁美、梓

園部家が暮らしていた福岡を追われ、東へ東へと逃げるように転居していく。名前を母方の旧姓薦田に変える。行く先々で迫害を受け周囲の視線に怯えて生活していたのがよくわかった。

梓も29歳の時に結婚のチャンスはあったが、死体配達人の家族だったことが明らかになった瞬間破談になり、その後40代になったが独身。

郁美はパート勤めで月給6万円、借家暮らしで生活に困窮しているのが伺える。あの事件以来、年金もまともに支払ってきていないようで、受給できていない可能性が高い。

犯罪加害者家族の末路は、世間の目を気にし身を潜めて生きていかなければいけない。そして郁美と梓の2人も例外ではなく、一瞬たりとも気の休まる瞬間は無かったかもしれない。

何のために生きているのか分からなくなるほど、悲惨な未来しかない。

被害者遺族:成沢拓馬

妻(成沢佐希子67歳)を通り魔(町田訓也)によって刺殺される。他にも2名が死傷。4名が重軽傷を負う。

容疑者の町田は統合失調症を理由に刑事罰を免れる。町田がどこに居るのか何をしているのか被害者遺族は一切分からないし、知る方法すらない。

被害者遺族たちによって、町田本人に民事訴訟を起こし、賠償金2億2500万円の判決を勝ち取る。が、しかし本人に支配能力がない上、財産もない。

さらに町田を扶養していた両親は、判決が出たあとに行方を晦(くら)ます。町田家族の住まいは借家だったため差し押さえも出来ない。

2億円以上の賠償金を支払え、という何の意味もない判決文だけが残る形になった。

その遺族の1人が成沢だった。

彼はその心の中に、恐ろしいほどの怒り、絶望、虚しさ、歯痒さを蓄積していったのだろう。それが何年も何年も堆積していけば、その心はどうなるだろうか?

被害者遺族は、犯罪を犯した本人に罰を与える判決をみることもできず、賠償金さえも取ることができず、ただ愛する人を理不尽に奪われた事実しか残らなかった。

想像するだけで、気が狂う程の哀しみと怒りに打ち震えてしまう。

この悪徳の輪舞曲では、加害者家族、被害者遺族の対比が上手く描かれている。この対比を読者に読ませることで、さらに物語の陰鬱さを増長させ全体に暗い影を落とす効果となっている。

😣光市母子殺害事件を思い出した

光市母子殺害事件(ひかりしぼしさつがいじけん)とは、1999年(平成11年)4月14日に山口県光市室積沖田の「新日鐵沖田アパート」で発生した殺人・強姦致死・窃盗事件。

事件当時18歳30日の少年F(現姓O)が主婦A(当時23歳)と長女B(生後11か月)を殺害し、Aの死体を屍姦した少年犯罪である。

引用元:wikipedia

当時、被害者遺族の本村さんはこう発言していました。

犯罪が起きた瞬間みんな負け

私はこの言葉をずっと覚えています。何年も被害者遺族として苦しみ司法と戦い、その人が考え抜いて発した言葉は真理を突いていると考えています。

被害者遺族、加害者家族、どちらにも勝者などおらず、その先には苦しみと哀しみの連鎖しかないのだろうと想像しています。

この悪徳の輪舞曲で描かれている登場人物たちも、ずっと苦しみ続け、癒えることのない傷を抱え、それでも生きていかなければならないのです。

そして哀しいかな御子柴礼二は、そこに気付けていないのではないかと思っています。

つまり人の痛みが分からない。

やはり彼には人として欠けているものがある。しかし彼なりの贖罪をしている、そのアンバランスさが彼の魅力でもあるのだと思うのです。

💓倫子再び!

物語のラストであの倫子が再び現れます。倫子初登場の回は、追憶の夜想曲です。詳しい情報は別の記事で考察しています。

彼女はなんとなく、著者手塚治のブラックジャックに登場するピノコに似た感じです。悪徳と言われる天才外科医(無免許)、金に汚い、悪名、ここまでくれば、もう御子柴礼二を想起せざるを得ない。

そのピノコが、物語のラストで再登場します。

しかもピンクの一輪の蘭の花を持って。

上手いですよね。御子柴礼二シリーズを読んでくれば、倫子の役割がとても重要なのが分かります。その倫子が登場した瞬間に、気持ちがほっこりするのに、今回は一輪の蘭まで携えてくるのです。

その瞬間、ずんっと暗く冷たい心が、パッと明るくなり軽くなる感じがしました。

その倫子に御子柴はこう尋ねます。

御子柴:お母さん、好きか

倫子:そんなの当たり前じゃない

そして、ラストの一文に繋がっていきます。

『生まれて初めて、他人が羨ましいと思った』

御子柴は実母、郁美を好きだとは思っていないのです。これは死体配達人と呼ばれる以前も、そして今も思っていない彼の自白です。

でも彼は母を好きになりたかった。でもなれない。だから倫子にだけは自分の気持ちを正直に打ち明けているのです。

お母さんを好きになりたかった、と。

それを倫子にだけ告げるところが、また著者の上手いところかなと考察します。このワンシーンだけ想像したら、簡単にブラックジャックとピノコが脳内で再生されてしまった!

この記事を書いた人
まさ

小説の構造・結末・テーマを徹底考察。
「ただ読むだけ、聴くだけでは終わらせない」
考察の過程で、作品に込められた意図や、物語の裏にある仕掛けを読み解くのが醍醐味。
特にミステリー好きな方に、新たな視点を提供できれば嬉しいです!

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