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復讐の協奏曲|中山七里、洋子の復讐の考察、ネタバレ解説と結末

Audible版、復讐の協奏曲はこちらから。サンプルあり。

ネタバレしていますので注意してください。

🔢御子柴礼二シリーズの順番

まさ
まさ

出版日ごとに並べています。この順番通りに読んでいくと、より物語が愉しめます。

贖罪の奏鳴曲(ソナタ)(1作目、2011年10月)

追憶の夜想曲(ノクターン)(2作目、2013年9月)

恩讐の鎮魂曲(レクイエム)(3作目、2015年9月)

悪徳の輪舞曲(ロンド)(4作目、2017年10月)

復讐の協奏曲(コンチェルト)(5作目、2019年10月)←今回はこれ。

殺戮の狂詩曲(ラプソディ)(6作目、2023年6月)

🎹協奏曲ってどんな曲調?

協奏曲(きょうそうきょく)は、独奏楽器とオーケストラが共演する形式の楽曲を指します。英語では「コンチェルト」と呼ばれ、イタリア語に由来しています。

構成: 協奏曲は通常3楽章から成り、各楽章で独奏楽器が際立つ役割を果たします。

独奏楽器: ピアノ、ヴァイオリン、フルートなどが主役となり、それにオーケストラが伴奏する形で演奏されます。

カデンツァ: 楽章の終盤に独奏者が自由に技巧を披露する部分が設けられることが多く、これが協奏曲の大きな魅力の一つです。

ちなみにオーケストラとは、弦楽器、管楽器(木管・金管)、打楽器など様々な楽器で構成される大規模な合奏団で、日本語では「管弦楽団」とも訳されます。

↓あなたも一度は聴いたことがある曲を協奏曲で演奏している動画。

曲自体が1つの物語になっている感じが、協奏曲という演奏なんだと思います。そして、今回は『復讐』という協奏曲です。

復讐の意味は、仇討ち、仕返しです。

つまり復讐の協奏曲とは、様々な登場人物(楽器)が奏でる1つ1つの復讐を通じ、それが物語として大きなテーマ(復讐)になっていると感じました。

今回の物語は、御子柴礼二に対しての懲戒請求という大多数の人間の歪んだ正義(偽善・嫉妬)から始まり、日下部洋子の逮捕と友原徹矢への復讐、そして物語全体として御子柴礼二への復讐に帰結していきます。

そして、カデンツァ(終結部)は作者のほっこりしたアレンジが加えられ、演奏は終わりを迎えます。

🧐御子柴礼二の強さが理解できた

私は御子柴礼二シリーズを5作続けて聴き続け、彼の強さの源泉は不安や恐怖を感じない、また動じない点だと考えていました。

確かにそれは間違っていなかったのですが、それとは別に本作品で、御子柴の他者にはない強さの源泉が提示されています。

それが『帰属意識の欠如』です。

私はこの一文を知ってハッとしました。帰属とは特定の組織に所属して従うことです。組織といっても様々あります。

最小単位でいうと、家族も組織です。地域、会社、国家も全部組織です。

その組織に所属することで、人間は安心感、存在意義、そしてアイデンティティを感じることができます。しかし、その反面、この所属意識は人の弱さも孕んでいます。

それが除け者にされることです。

人は集団から除け者にされることを、無意識に恐れています。これは人間に備わった本能によるものかもしれませんが、集団から弾き出されると生き残っていくのが難しくなるのでしょう。

それが我々のDNAに刻みこまれているからこそ、組織から弾き出されることを恐れる。だから周囲との軋轢を無意識に避けようとするし、逃げようとする。それは従順さになり、弱さにもなる。

しかし、御子柴はこの帰属意識が欠落している。これは彼の生まれ持った特性の1つだと言えます。後天的に会得できるスキルではありません。

天性のものと言っていい。そこが彼のありとあらゆる強さの源泉なんだと気付きました。それが対人力、交渉力、論理力、そういった目に見える形で表れているのです。

そんな彼も、シリーズが進むにつれて次第に人間らしく変貌(成長)していきます。今回もまた1つより人間らしくなれたように思います。

それはまた後で考察しましょう。

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🪚日下部洋子の過去と復讐

彼女は無戸籍の人間でした。戸籍が無い人間は、ある人間と比べてまるで違う人生を歩まなければいけません。

まず子供時代では、保育園、幼稚園に通うことさえできません。そして就学時になったときも義務教育を受けることさえできません。なぜなら戸籍がないので、存在しない人間なのです。

そして大人になっても身分を証明するものがないので、身分証(マイナンバー・運転免許証など)を作ることさえできません。

それは就職をする際に、本人に大きな心理的な負担になると容易に想像できます。

ちなみにですが、現在では保護者の同意、協力など無くても戸籍を作ることが認められています。これは2016年1月に最高裁判所の決定によって認められた「就籍許可制度」を利用することで作ることができるようです。

話を戻して、洋子はその生い立ちから子供時代にイジメに合います。これも帰属意識からくる人間の習性だと思います。

グループとは違うカラーだと容赦なくその人間を弾き飛ばし、そして苛める。洋子もその対象だった。しかし、洋子にはその辛さを忘れさせてくれる存在がいた。それが佐原みどりでした。

しかし、みどりは園部信一郎、当時14歳の中学生によって殺されてしまう。仲の良かった友達を殺され、洋子は淋しくて辛かっただろうと容易に想像ができた。

そして成長した洋子は園部信一郎(御子柴)を恨むことになる。そして復讐の火種はその胸の中にくすぶり続けたのだろうと考察します。

🔆復讐の螺旋階段を降りた洋子

物語の終盤で、洋子は復讐することを止めたと語っています。

心がささくれ立ち、疲れ果て、前に進めなくなる。彼女はこういったように語っていました。私も似たような経験をしたことがあります。

復讐は人の心を荒廃させていきます。

大切な精神エネルギーを怒り、憎しみ、屈辱といった感情に費やしながら、頭の中で同じ風景を展開していくのです。

何度も何度も同じ場所を周り続けるのです。そうしているうちに疲れ果て、気力を失い残ったのは辛さと疲労、そして憎しみだけです。

洋子がいう、前に進めなくなる、というのは復讐の本質をついています。そして日本には古来よりこういった諺があります。

人を呪わば二つ(ひとをのろわばあなふたつ)

人の不幸を願えば願う程、それと同じ苦しみ、不幸が自分にも返ってくるというものです。結果、2人とも不幸になり墓穴が2つ必要になるとも伝えられています。

だからこそ洋子は復讐の連鎖を断ち切り、自分の道を歩んでいく選択をした。それは列車のレールの切り替えと全く同じ原理だと思います。

レールを切り替えることで、終着地点が変わります。それは少なくとも復讐の成れの果てではありません。

そして洋子がそのような行動を取れたのも、子供時代から疎んじられても辛抱し、親友を失うという辛い体験をしても乗り越えてきた彼女だからこそ、強い人間だったからこそ彼女は変われたのだと考察しました。

すべての人間が洋子のように強くは生きられない。

しかし復讐の成れの果ては悲惨でしかない。その成れの果てはこの物語を読み終えた時、あなたも目撃者になると思います。

ただ復讐する当事者になったとき、その螺旋階段から降りることは容易ではないことも、また私は知っています。

だから、人生とは辛く苦しいものだと仏陀は説いたのでしょうか。

🥰倫子、再々々登場

ここまで倫子が登場するとなると、倫子=ピノコ説が浮上してきます。ただ倫子も本作品で11歳にまで成長し、御子柴の胸の辺りまで大きくなっているようです。

もう背丈だけはピノコではないように思いますが、それに準じるキャラなのは間違いないのです。

悪徳弁護士とその助手の助手といった関係でしょうか。そして御子柴からしたら小さな組織が出来上がってきているように思います。

倫子と御子柴のやり取りでこんな一幕がありました。

倫子:『(中略)ちょっと困っているの』

中略

御子柴:『まさか家の中で何かされているのか』

倫子を心配しているからこそ、出る言葉です。人間らしくない御子柴なら、倫子を家まで送っていってサヨナラです。

しかし、御子柴は倫子を心配しています。どれだけ倫子に悪態をついても暖簾に腕押しだし、何よりも倫子は御子柴を尊敬している。

御子柴は人間としてまた成長できたように思います。しかし、それは彼の持つ強さの陰りかもしれません。なぜなら彼には弱点ができてしまったので。

もちろん、洋子を救ったのは単に有能な事務員が居なくなられては困る、そういった考えが強かったのでしょう。

しかしこの物語で、洋子の過去を知った御子柴はこう表現しています。

訊くんじゃなかった。

御子柴は胸の裡で舌打ちをした。

なぜ御子柴はこのように考えたのでしょうか。これは洋子が嫌いだったとか、そんなんではないと思います。

彼は洋子を深く知ることで、彼女との繋がりを作ってしまいたくなかったのだと思います。繋がりができてしまうことで、御子柴からすると理解不能なことが増えてきます。それは思考、感情面でのことです。

そして何よりも、洋子や倫子に対して情が湧いてきます。それは冷徹無比な御子柴に綻びをみせる要因にもなるでしょう。

そして綻びは弱さも伴い、彼に災いをもたらすかもしれません。だから広域暴力団浩龍会のナンバー3、渉外委員長、山崎岳海は御子柴にこう伝えたのです。

情に流されると碌なことありませんよ。殊に先生みたく冷徹に仕事をするメルタイプには致命傷になりかねない

これは御子柴に、弱点を作るなよと暗に仄めかしているのだと考察します。裏社会で生き残ってきた山崎だからこそ言える言葉で、そして重みがあります。

そしてこの物語のカデンツァ(終結部)にふさわしい締めくくりも、ぜひ愉しんでみてください。

次回作以降、御子柴たちにどんな試練が待ち受けているか分かりませんが、ますます面白いシリーズになってきた感じです。

御子柴、洋子、倫子の過去がしっかり分かった上で、今後はどんな展開で読者を翻弄してくるのか!?このシリーズおすすめなので、1作目を読んでいない人はぜひ手に取って欲しい一冊です!

この記事を書いた人
まさ

小説の構造・結末・テーマを徹底考察。
「ただ読むだけ、聴くだけでは終わらせない」
考察の過程で、作品に込められた意図や、物語の裏にある仕掛けを読み解くのが醍醐味。
特にミステリー好きな方に、新たな視点を提供できれば嬉しいです!

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